デジタルオリジナル配信記念

「すばる」からデジタルオリジナル作品が登場!
2019年からの配信開始を記念して、その作品の前日譚を公開します。

青木淳悟「プロ野Qさつじん事件」配信記念エッセイ

前座の前座

来たる2019年の1月か2月に、拙著の電子書籍『プロ野Qさつじん事件』が、出版社から正式配信されます。あっそうナンダ、でもそれならそれで、どうせ来年早々に発売するんだったら、何もこんな年の瀬も押し迫る忙しい時期に、あえて厚かましい感じでWEB公開などしなくたっていーんでないの・・・・・・と、いまお思いになったのではありませんか?
いまそうお思いになったのは、もしや比較的年齢のお若い方なのでは・・・・・・? 若いといっても上限は御年29歳となる、つまり30歳に届かない20代や10代の方。そう、年齢早見表等で確かめるまでもなく、平成30年の今年で満29歳以下の方はみんな平成生まれですから、昭和を一日たりとも体験されていない世代に属していらっしゃる方にちがいない。さらにそこから導き出される「平成マインド」ともいうべきものは、ひとつの時代感覚として、あるいは時代全般への「節目感」から、これから迎えようとしている大晦日と正月(松の内)のことよりも、来る5月1日へのカウントダウンのほうを重大視する傾向にあるのではないか。それもこれも「平成が終わること」にばかり気を取られている結果なのではあるまいか。と、いろいろ決めつけたり、勝手な推測を働かせずにはおれません。
一方、現在30歳以上(一部29歳)の方は、——物心がついていた/いなかったにかかわらず——皆が皆昭和を体験している世代であり、そのときひとつの時代が終焉を迎えつつあった当時の空気に直接触れた世代である、ということができましょう。
さて、では「ちょうどそのとき」、世の中はどんな感じだったか・・・・・・? 大納会を目前に日経平均株価が史上初の三万円の大台に向けて着々と「トータルスコアをのばして」いて、大蔵大臣が某イケイケ民間企業R社の未公開株譲渡問題で辞任を表明すると、通信大手企業N社の会長までもが同問題で辞職して株高を世に印象づけ、そのうえさらに同時期にはN證券あたりから『ファミ●ントレード』なるタイトルで発売された「通信アダプタでファミ●ンと電話回線をつないで実際に株を売買できる」テレビゲームも、大人たちのあいだで流行っていた(まったくそーでもない?)ことを思い出します。
そしてまた「ちょうどそのとき」、とある大阪のひとつのゲーム会社Cの奴原が、『プロ野●?殺人事件!』なんていう際どいタイトルのファミ●ンソフトの発売を目論んだうえ、あろうことかテレビCMさえ打って、世間の「自粛ムード」に水を差していたのであった・・・・・・。ゲーム内容はコミカルなのかシリアスなのかよくわからない。頭にきたのは宮内庁とそちら寄りサイドの人たち(かといろいろ妄想してしまう)。
その年の9月半ばに吐血された昭和天皇の容態は一進一退を続け、経過はテレビや新聞を通じてだいぶ詳しく——体温・血圧・脈拍数から下血、輸血量までも——報道されてきたところだが、この12月に入って、24日の新作ソフト発売予定日は無事に迎えられるのかと、一部で囁かれていたものだった。

——1988年12月24日発売予定
——価格5900円
消費税はまだ1%も導入されていない(思えば夢のような)時代の話である。「他人の空似」で、どこかの球場やテレビ番組等で見かけたような顔を含め、登場人物は総勢50人以上だとかいう、架空のプロ野球界を題材としたロールプレイング&アドベンチャーゲーム。・・・・・・事件解明を全国に呼び掛ける当時のテレビCMを覚えているくらいなので、小学生の私はきっと発売後すぐ、おそらくクリスマスプレゼントとして親に買ってもらったのだ。ストーリーは殺人とニセ札事件の濡れ衣を着せられた主人公の「いがわ すぐる」が、警察に追われつつ自ら犯人捜査に乗り出して、球場のある7つの都市を駆け巡るという話らしい。

いがわ「真犯人が誰かはまだ皆目見当がつかないが・・・・・・大阪本社のあのゲーム会社は確信犯だ・・・・・・!」

何がそんなに当時の私の興味をかき立てたのか、またなぜ30年後の今日まで興味を引かれ続けているのか、そのゲームの世界観を十二分に援用させていただいた中篇と短篇4作を書き上げたいまでも、我が妄念の存在は謎のままだった。とにかくソフトを開発したC社は素晴らしい会社だ!
当ゲームソフトの発売三〇年を一方的に祝したい一心から、また昭和の最末期の世相がどうだったかを思い出す、あるいは懐かしむきっかけにと、2018年12月24日を目標にWEB公開を敢行し、時代と思い出深いソフト(創作上では「プレイ実況動画」にも大変おせわになりました)とに、厚かましいオマージュを捧げます!

◇配信前夜のエッセイ1——昭和が終わる前に

 むかしむかし、それはいまからちょうど30年前の、1988年12月のことである——。

 当時小学3年生(9歳)の男児たる私は、小1でファミコンデビューを飾って3年目に当たり、自分の技量にもそろそろ自信を深めていた頃だった。思えば調子に乗っていた。
 どれほどの腕前か・・・・・・例えば横スクロールのアクションゲームを、9歳当時の私にやらせてみてほしい。名作タイトル『スパルタンX』なんて持ちだしてこようものなら、眉ひとつ動かさず無言でコントローラーを握り、相当な「ステージ数」をクリアしてしまうことだろう。最上階の5階ステージで待つのは、カンフーの使い手にして敵ボスの頭領たるミスターXであり、そのカンフー対決の次に待ち受けるのは、何とスタート地点の1階である。
(おまえが五階にいるかぎり・・・・・・何度でも階をのぼって倒しにこよう!)

 2周目3周目に入った各階ステージでは、敵の数も攻撃パターンも増えて難易度が上がる。ただそれらの敵を倒して進むだけでは芸がない。そこであえて通常敵のナイフ使いの男を倒さずに背後側からナイフを投げさせつつ、それをしゃがみとジャンプでかわしながら正面から来る敵を倒して進む、というような真似をする。ときにはナイフ使い2人に前後を挟まれ、上段と下段に同時にナイフを投げられてしまった場合には、仕方がないのでしゃがんだまま下段ナイフを身に受けることになる。
 より危険で、より困難な道を選ぼうとする小学生。これはもうまさに、ゲームにおける求道者といっても過言ではないのではないか。
「より危険かつ困難な道を選ぶ男、よっ、人生の求道者・・・・・・!」
 だがしかし、この世には横スクロールするだけではクリアできないゲームも多々存在する。
 地面を俯瞰して「フィールドマップ上を移動する」形式のゲームがある。勇者が世界を冒険する類のロールプレイングゲームがいい例だ。一方で野球ゲームといえば、ファミコンだと『ファミリースタジアム』シリーズや『燃えろ!プロ野球』などが有名だが、だいたいにおいてグラウンドの広さだけは動き回る必要がある。守備側ではコントローラーひとつで9人もの選手を操作できるというのは、考えてみればなかなかすごい発明ではないか。味方の数は9人であったり11人であったりするが、こういったスポーツジャンルのゲームには、普通は主人公がいない。球場外にフィールドマップが広がっているようなこともない。

 私がその12月、やたらと自宅のテレビに齧りついていたのは、ファミコンをプレイするためばかりではなかったように思う。
 何の番組を見ているときだったかは思い出せないが、そのCMのことはよく覚えている。主人公のキャラクターイラスト。ゲーム自体のデモプレイ画面。
「ねえ母親? もしもあの有名な日本人が●●したりしたら、そのときには日本の何かが終わるの? まさか12月までが途中で終わってしまうとすると——」
「そこは●●じゃなくて●●っていいなさい! しかもそんなの子供の知ったことじゃない・・・・・・!」
「あ、ちがったよ母親。別のほうのテレビでよく見る有名人そっくりなキャラクターのことだった。さっき見たCMでは、どうやらその彼が殺人とニセ札事件の犯人にされてしまったらしくて、
『深まりゆく疑惑』
『そこに絡まりあう謎』
といった状況のようなんだけど、ほかにはそれが『ロールプレイング&アドベンチャーゲーム』だってことしかわかっていない。はたしてそんな野球ゲームがこの世にあるもんだろうか・・・・・・?」

 きっとそこには、主人公の自宅と球場のある横浜の町を皮切りに、関東では川崎とか東京都心とか所沢の町が存在し、主人公は各球場にも現役時代のユニフォーム姿ではなく前年に引退した元プロ野球選手として、私服で訪れることになろう。またその世界では当然ながら、左右だけでなく上下方向にも進んで、鉛直方向にはマンホールの蓋から下水道ダンジョンに下りることになるだろう。
 ゲームでは、まだ1988年9月上旬という設定だったので、ペナントレースでも事件でも状況は切迫しているものの、年号のことを気に掛ける人間はほぼいない世界である。
 それはまあそれとして、タイトルが『プロ野球? 殺人事件!』だとは、やはり上下左右に進める世界だけのことはある。——単純に「広い」ということ以上に、疑惑と謎の解決を目指してフィールドマップ上を延々と彷徨い歩くことになろうとは、主人公もコントローラーを握るプレーヤーも、このときはまだまるで気づいていなかった(・・・・・・全面クリアできなかったのは、カンフーが使えなかったからかもしれないです。また筆者が得意のはずの「横スクロール」でも、どうしても謎を解決できなかった/する気になれなかったタイトルとしては、『ルパン三世 パンドラの謎』と『たけしの挑戦状』などがあります)。

青木淳悟(あおき じゅんご)
青木淳悟(あおき じゅんご)
作家。1979年埼玉県生まれ。2003年「四十日と四十夜のメルヘン」で新潮新人賞を受賞してデビュー。2005年「クレーターのほとりで」が第18回三島由紀夫賞候補に。同年、前記2作を収めた作品集『四十日と四十夜のメルヘン』で野間文芸新人賞を受賞。2012年『私のいない高校』で三島由紀夫賞受賞。他の著書に『いい子は家で』『私のいない高校』『男一代之改革』『匿名芸術家』『学校の近くの家』がある。

デジタルオリジナル作品は2019年配信予定です。お楽しみに!

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