- 初めまして。亀梨です。今日は僕が主演させていただくドラマ「東京バンドワゴン~下町大家族物語」の原作者の先生と対談できるということで、何か身の引き締まる思いです。
- いや、そんな(笑)。でも脚本だけでなく、原作のシリーズもけっこう読んでくださっているそうで、ありがとうございます。
- まず率直な感想を言っちゃいますけど、『東京バンドワゴン』シリーズ、めちゃくちゃ面白かったです。
- ほんとに?
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はい、最初はドラマの原作ということで読み始めたんですけど、だーっと一冊目を読み終わったら、二冊目、三冊目と止まらなくなってしまって。ホント面白いですね。
映画化、ドラマ化するに当たって、こうして原作を読んでスタートする作品もありますし、原作があっても、あえて読まないでくれと言われることもあるんです。でも、今回はドラマ版の主演の青をやらせてもらうには、完全にこの原作が手がかりになると思うし、青君というキャラクターをどう原作から読み取るか、それが重要な作業になると思っています。
- それはうれしい感想ですね。主演の青と亀梨さんご自身、重なる部分はあります?
- 舞台が昭和の風情溢れる下町・老舗の古本屋で、三世代四世代と一緒に住んでいる大所帯でしょう。何しろその『東京バンドワゴン』の作品世界そのものが僕の育った環境とよく似ていて、ものすごく親近感があるんです。僕、もともと下町出身で、そのせいか、一緒に仕事をさせてもらうと、いろんな人に「昭和だねえ」と言われる。対人関係や、考え方、使う言葉とかが、すごく昭和っぽいらしいんですね。まだ二十代のくせに「今どきの若い子は」なんて言っちゃうし(笑)。僕は小さい頃から近所の人とも、お醤油を貸し借りする環境で育ったので、『東京バンドワゴン』の世界って、本当になじみ深い感じがするんです。
- 亀梨さんのところも大家族だったの?
- 四つ上と二つ上の兄貴と、四つ年下の弟の男四人兄弟です。
- 男四人はすごい。けっこうな大家族ですね。家族みんなご飯はそろって食べていたの
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食べますよ。小説の中に出てくる風景と同じで、ほんとに食卓は常ににぎやか。こーんなでかい鍋でお母さんがご飯のおかずを作るんですよ。一人ずつ分けたりしないで、その一つの鍋から好きに取るという形だったので、早く食べないとなくなる(笑)。まさに肉食系の家族で、僕なんか子供の頃はずっとほっぺたに何かしら詰め込んだまま食べていたなって記憶があります(笑)。
僕、十九のときに家を離れてるんですけど、実家が近いせいもあって、いまだに家族がすごい仲よくて、お正月とかはもう二十人近くになるんですよ、全員集まると。
- お兄さんとかもご結婚されて、子供たちもいっぱい集まって?
- ええ、一人なのは僕だけ。父、母、兄、甥っ子、姪っ子、奥さん。兄、奥さん、姪っ子。で、僕。弟、弟奥さんとわんちゃんたち。あと、近所の地元の友達も集まるから、大変な騒ぎ。面白いのは、地元は江戸川なんですけど、いまだに実家の近所のおばちゃんとか母親が、僕の一人暮らしの部屋に勝手に上がり込んでお茶してたりするんですよ。まさに『東京バンドワゴン』の世界でしょう。
- 亀梨さんの育ってきた環境がこの小説になじみ深いというのは、大変僕にとっても心強いことなんだけれど、亀梨さんの世代ってあんまりホームドラマに縁がないでしょう。
- そういえばそうですね。あえて言えば母親が見ていた「渡る世間~」を一緒に見ていたくらいですね。
- 僕らの世代は、茶の間のすごくいい位置にテレビが一台どーんとあって、家族全員がそろって見る。そういうテレビが主役だった時代の最初の世代なんですよ。で、みんなで見ていたのが、あの有名な「寺内貫太郎一家」とか「時間ですよ」。その当時は、テレビのせいで家族の会話がなくなって嘆かわしい時代だとか言われたんです。
- 僕からすれば、みんながちゃんと集まってテレビ見たり、ご飯食べたりする昔の人間関係っていいなって思うんですけどね。
- 会話がないって言うけど、僕らにしてみれば、家族がみんなご飯食べ終わって茶の間にそろって、同じ方向を向いて、じーっとテレビ見て泣き笑いするというのを肌で感じてきているんです。
- テレビがなかったその前にはそういうことはなかったわけですものね。
- なかった。ご飯を食べて終わり。
- それがみんなで同じものを見てる。
- うん。で、たとえばラブシーンがあったら、親父が「ウ、ウォホン」とか言いながら新聞を広げたり、悲しいシーンでは母や姉がそっと涙を拭いていたりとかね、そういうベタなことを普通に見てきた世代です。だから、僕が書く人間関係とかドラマというのは、その頃に体験したテレビドラマや映画、漫画、小説とか全部が入ってきていて、それを出している。そんな感じなんですよ。
- でも『東京バンドワゴン』は、今までのホームドラマとは一味もふた味も違いますよね。家族の中での話もあるけど、一話ごとに必ず何か事件や謎めいた出来事が起きて、堀田家の誰かが解決に乗り出すという設定がある。その解決の仕方がまた、洒落(しゃれ)てるし、愛があってすごくいいんですよね。結末を読むと、勘一おじいさんや青の父親でロックンローラーの我南人(がなと)が見事にコロッとやってくれて、そっちから来るか、やられたなって思う。
- ただのホームドラマじゃ面白くないでしょ。僕ね、もともとミステリーが大好きで、とくに子供の頃は、怪人二十面相とか明智小五郎とか出てくる江戸川乱歩のシリーズにはまっていて。それで、じゃあホームドラマに探偵家族をぶち込めばいいじゃんって思ったの。家族に何か事件が起こって、それをみんなでわいわい言いながら解決して、大団円を迎える、よしそれでいこうと。
- もう一つ魅力的なのは、語り手のサチおばあさんがすでに亡くなっていて幽霊なんですよね。この語りがあることですごく読みやすくなっていますよね。
- ホームドラマには当然語り手は必要だろうと考えたとき、おばあちゃんだなというのはすぐ出てきたんです。でも生きている人間だと自分が見たものしか語れないでしょう。死んで幽霊になってもらえば、どこへでも行けるし、小説のカメラアイになれるからこれでいいじゃんって決めた(笑)。その間、四、五分。適当なんです。
- すごい。幽霊のサチさんがいてくれることによって、この物語がめちゃめちゃ3Dになるというか、お、ここから展開していきそうだというわくわく感が増しますよね。
- その幽霊の語り手をドラマではどうするのかとか、この普通じゃない物語をどうドラマ化するのか、僕も非常に楽しみにしているんですけどね。
- 僕は今回このホームドラマに出演させていただくことに、不思議なご縁を感じているんです。僕がドラマに出させてもらった一発目が「金八先生」だったんですが、ジャニーズに入って十八くらいから、コンスタントにドラマをやらせてもらっています。でも、これまで僕の中に本質的にある部分で勝負したことがないというか、そういう気がしていたんです。それが今回このドラマに出会えたことで、ジャニーズの亀梨和也という像ではなく、初めて自分の中にあるもので勝負させてもらえるかもしれない、という手ごたえを感じているんです。
- 亀梨さんって真面目だね。真面目だと思わない? 自分で。
- いや真面目じゃないですよ。基本的にはめちゃくちゃやんちゃだし、真面目に勉強してきたタイプじゃないし・・・・・・。
- いや、そういう真面目さじゃなくて、生真面目という言葉があるんだけど、根っこが真面目なんだよね。まっすぐなんだよ。きっとご両親の育て方もあったと思うけど。
- 今まで僕がやらせてもらったドラマって、その作品の中で軸となる主人公がわかりやすいものばかりだったんですね。でもこの『東京バンドワゴン』は、毎回家族の中の誰かが視点となっていろんな出来事が起きていくでしょう。一応、主役は亀梨和也の青君でいくことにはなっているんですけど、それは単純な主役ではなく、原作にあるような映像の奥にある何かを引っ張り出す作業が必要だなって思っているんです。
- その通りだと思います。
- それが最大の課題で、しかもめちゃくちゃ難しいなと。大人数でのお芝居もそうですが、青君のキャラクターにしてもこれから時間をかけて詰めていかなくちゃいけないなと思っています。でも、さっきも言いましたけど、僕自身、自分の中でこういうものをすごく求めていた。この作品に出会ってそう思えたし、今まで自分が見ていなかった景色を見てみたいってすごく思います。
- いや、今お話を聞いて、多分、亀梨さんは青と同じスタンスだと思います。青も実はいろんな才能を豊かに持ってるんですよ。いい男だし、スポーツも万能で、俳優にスカウトされて、映画に出たこともある。だけど、そんな才能に恵まれていても、実は親父やじいちゃんには全くかなわないなというジレンマも抱えている。その中で俺は一体どうしたらいいんだろうっていう鬱屈もいろいろたまっているんですよね。でもね、亀梨さんが今まで過ごしてきた中のものを、そのまま普通に出していただければ、多分、青とストレートにつながると思いますよ。
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大丈夫ですかね。やってみたいと思う半面、不安もあるんです。僕は十二歳からこういう仕事をしてきて、ほんとに恵まれてると感じてはいるんです。でも恵まれているゆえの普通じゃない部分もいっぱいある。アルバイトもしたことなければ、好きに旅行したりとかもないし。KAT-TUN亀梨和也の見え方もあるから、本来なら飛行機のエコノミーでもいいのに、エコノミーに座ってるとこばれたくねえみたいな余計な気持ちが働いちゃうんですね。
お店に行って、このクーポン使えます? とか、駅の改札やコンビニでカードをピッとやったりとか、みんなが普通にやっていることを全部置いてきちゃったなというのを最近すごく感じるんです。だから、そういうものを拾いに行く作業をしたいし、自分のためにそういう時間を作りたいなと思う。みんなが当たり前に見てきた景色を僕も見てみたいって。
- うん、わかるわかる。
- その意味でも、今回の『東京バンドワゴン』というホームドラマは、自分の原点に立ち返るきっかけになると思っているんです。テレビで踊って歌って、インタビュー受けている亀梨和也ではなく、打ち上げで飲みすぎて「ウエーッ」とかやっている俺で勝負していいかなと。
- 自分の中にあったはずのただの亀梨和也、ジャニーズにいなかった時の向こう側にいる自分も出しつつ、ですね。
- じつはそれってすごく怖いことでもあるんですけどね。でもやっと何か自分自身を見せてもいいんだと思える時期が来た気がするんです。今までの活動が間違いだったとか正しかったということではなくて、こと人間として見てもらえる時期が来たというか、見せなきゃいけない時期が来たという感じです。
- 僕ら視聴者は、テレビドラマや映画で、俳優さんの奥を見ちゃうんだよね。演じる俳優さんの奥にあるもの。それを感じ取れないとそのドラマの深みがなくなってしまう。逆に役になりきったさらに向こうにある俳優さんの何か臭いを感じられれば、すごく面白いものになってくる。今日、亀梨さんがおっしゃったことはすべて俳優さんが演じるその奥にあることに通じることだと思います。安心しました。すべてお任せします(笑)。
- えー、そんな。こんなファンがいっぱいいる作品に出させてもらって僕の方こそ光栄です。クランクインに向けて徐々に温度を上げていくつもりです。